シンガポール魂(Singapore Spirit)
賃金の上昇への期待薄くも、国民の満足最優先
夕刻の混みあう市バスの中で、隣に立っていた地元インド人に声をかけられた。日本びいきだから、と気軽に話してきた彼は、不動産エージェントを長いことしているが、「いやあ、ここ2、3日で家の価格が下がったねえ、驚くべきだよ。流石、政府介入が確実に功を奏している」と漏らした。
そうなのだ、先月29日のナショナル・デー・ラリー(NDR:National Day Rally)のリー・シェンロン首相の発表「不動産購入にかかる新たなルール」は明らかに市場に影響を見せ始めている。
今年11月と噂されている数年に一度の選挙が近づいているのも手伝い、近頃のロカール人たちのお昼ご飯の話題は、もっぱら今後の国の方針に関する話題で持ちきりだ。
今回のNDRは、年に一度の政府の方針を伝える重要なメッセージであり、先述の不動産購入ルールの導入や、シンガポール市民と外国人流入のバランス、雇用や賃金、教育指針についてなどにも触れていて、国民だけでなく、外国人である我々も注目すべきスピーチだ。
「賃金の上昇への期待は注意すべき」
世界的な不況の影響を回避して、シンガポールの今年上半期GDPは、予測の13~15%を上回って前年比18%の伸びを見せた。これについて、リー首相は「長期ベースで見て、さらにこの伸び率の維持を期待することは難しい」と述べ、「次の10年間に期待すべき現実的な伸び率は、せめて3-5%(年)だろう」と、シンガポール市民の賃金上昇に対する期待感には用心するよう、とメッセージを送った。
雇用・労働市況については、シンガポール政府はかねてよりビジネスの競争力を高めるために「生産効率性の上昇」と「個々の労働者のスキル向上」を掲げており、この指針に変更はない。
また、リー首相は外国人の流入問題について「熱い議題」と定義した上で、こう語っている。
シンガポールには、まだまだ外国人労働者が必要である。外国人労働者への労働機会の提供は、しいてはシンガポール人への雇用機会の増加へとつながるからだ。世界中から有能な人材を集めたいと考えている。
また、2009年の出生数が前年よりも低下していることに触れ、シンガポール人口増加のために外国人人口をあてることの必要性を説いた。
しかしその一方で、シンガポール国民が最も重要であることを強調し、今後のPR(永久市民権)取得基準の引き締めや、企業に対する外国人雇用税の引き上げの実施など、国民とそうでない外国人との差別化を強化してゆく方針を示した。
「次世代につなぐ精神」
リー首相は、「我々の社会の各部分を形成するもの」=「次世代に継いでいくもの」=『シンガポール魂』についても言及した。
シンガポール魂は、共通した人種や言語、宗教ではない。多人種・実力主義・才能ある人材への敬意、これらの価値観に深く根付き共有できることが、「シンガポール・スピリット」である。さらに、シンガポールを心から支持し、我が国がこれまでに成し遂げたことについ高く誇りをもっていなければならない。記憶を共有し、共通の夢と大志を抱く精神だ、と宣言した上で、シンガポール政府がより多くの有能な外国人に当地に深く根を下ろした形で社会に融合していくことを望んでいる、とも伝えた。
今回のNDR発表以後、町の井戸端会議のみならず、様々なメディアのフォーラムでもそれぞれの立場から人々の意見が活発に繰り広げられている。これまでも「変化」というか「進化」の著しい国家であったように感じたが、これからもその勢いに「待った」がかかることはなさそうだ。
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