「シルバーの津波」
アジア域内をリードする日本とシンガポールの雇用体制
「経験は豊富だが雇用コストが高くつく。生産性も若者のほうが高い」とアジアの多くの企業が、シニアよりも若い人材を雇用する傾向にある、と香港ベース非営利団体Diversity and Inclusion in Asia Network (DIAN)
が最近の調査結果を明らかにした。(2010年4月10日ストレーツ・タイムズ紙)
このレポートで注目したいのは、当域内で唯一日本とシンガポールの二カ国のみが「シニアに優しい雇用」を実践していて、高齢人材をいかに活用するか方策を打ち出しつつある点。アジア各国の企業のマジョリティとは一線を画している。
日本・シンガポール両国とも高齢者人口の全体に占める割合が年々急激に大きくなってきている。労働者人口の高齢化に伴い、定年を迎えるシニアに対しどのような雇用機会を創出・捻出できるか事前的対策の現れであると考えられる。
DIANの運営母体Community Businessのリサーチ・マーケティング部門トップのKate Vernon氏によれば、「国の経済の成功のためには、シニアのより長い期間の労働市場での貢献が必要だと、シンガポールは認識している」とのことだ。
シンガポール政府は、高齢労働者の雇用を強化するため、定年後の再雇用に関する3者間ガイドライン制定なども押し進めていて、シンガポールの定年は2012年までに現在の62歳から65歳に引き上げられる方向だ。
シンガポール議会メンバーで雇用機会実践のための第三者団体の議長もつとめるHalimah Yacob氏は、「シンガポールでは高齢者で構成される団体が急成長しており、これを無視することはできない。彼らを労働者として上手に活用し、シルバーの津波にのっていくことが重要だ」と述べる。
レポートには、高齢者向けにいかに適切な就業の機会をつくりだすかいくつかの提案も含まれており、例えば、「高年齢に優しい」文化を育むために、拘束時間や労働環境を高齢者に適したスタイルに再デザインすること。「プランの実施は早ければ早いほど、企業の未来の組織文化に早く定着してゆくだろう」とDIANメンバーでアメリカン・エキスプレスシンガポール社人事部トップのJulia Wolage氏も強調して補足する。
もう一方の国、日本は世界の中でも高齢化が顕著にみられる国々の一つ。団塊の世代が定年を迎え始めた2008年頃から、高齢者の再雇用プランの採択が広がり、社会と経済のダイナミズムが人口統計学条件を下回ったことから、日本国政府は"皆が社会で役割を果たす"新雇用戦略を打ち出した。本戦略概略では、次の3年間で「若者・女性・高齢者」の3つのゾーンの人々を雇用の側面から支援してゆくというものである。高齢者支援については、現在の60歳の定年を65歳にまで引き上げることを、日本政府は本格的に検討している。
ところで、日本人というと常に「イノベーティブ」な印象が強い。
東京農工大学工学部機械システム工学科の遠山茂樹教授は、モーター式農作業スーツを開発した。このスーツを着用することにより、農作業時の体への負担は62%軽減される。日本の半数近くの農業就業者が65歳以上となっている今、こうした科学技術の採用も高齢者活用の鍵となってゆくだろう。
高齢者の活用という点で、日本とシンガポールがそれぞれにアジア各国内でリーダーシップをとっているというニュースは、心なしか嬉しく感じる。シルバーの津波エネルギーをうまく活用し、国の経済・社会がさらに豊かになってゆくことを望むばかりである。
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